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中島湘煙「同胞姉妹に告ぐ」 7

以下の文中には、原文の表現にもとづき、今日では不適切と受け取られる表現が一部含まれていることをおことわりいたします。

   その七

社会が開けゆき、人知が進む程度に従って、男女の交際もうるわしく行われるもので、今の世の下等社会、すなわち裏長屋の八つぁんとか熊さんとかいう人々の境遇について、その夫婦の間の礼儀を欠き、作法がないのを見て、男女同権を許したなら、どのような騒がしい世となるだろうと心配するのは、ちょうど川の下流が濁っているのを見て、この川の水は汲んではならないと定めるのと等しいもので、あまりにあさはかで思慮のないあげつらいといえる。

川の下流が濁っていても、上流が澄んでいるなら、その澄んだ水を汲めばよい。

また、その濁った部分も時が経てば澄んだ水となるだろうから、澄むのを待って汲んだとして何の問題があるだろうか。

そのうえ、人の力でこれを澄むようにし得る方法も、多くあるのではないか。

思うに、わが国の下等社会、すなわち裏長屋の実状を探ってみると、その夫という者の礼儀作法のなさは驚くばかりで、衣食住が整わないのは言うまでもない。

平生のふるまいが無作法であるのは、ほとんど中等以上の人々が夢にも思い至らないほどのものなのである。

それは親しく行ってご覧になるまでもない。

一晩、寄席というものに行って、落語家の舌が動くにつれて語り出される滑稽な噺をお聞きになれば、明らかに悟れるものがあるだろう。

戸主である夫が、このように礼儀を欠き、無作法なありさまで、その妻や子である者がどうして礼法を守り、その夫であり、親である人に敬い仕えるだろうか。

だからこそ、ときどきは井戸端で会議を開き、あるいは長屋の中を隣近所の噂をして歩き、またはすりこ木とすり鉢の立ち回りもするに至るのだろう。

それを杞憂する男たちが、罪を女のはしたなさだけに帰して、戸主である男の罪を言わないのは、そもそも不公平な裁判というべきではないか。

思うに、世の中のことは、その極めて低い者によって弊害を述べるときは、道理として善良なものはないのだ。

火は人間に必要なものであるが、世の中が広く、人間が多い中には、この火のために火傷をする人がおり、衣服を焦がす人がいる。

家を焼き、家財を焼き、人を焼き殺すなどの災害は大きな問題といえる。

しかし、人間はその災害の多さを見て火を廃そうとは言わない。

思うに、火が人生に必要で、その災害は人の不用心か、その器の不完全によることを知っているからだ。

男女同権の道理もこのようなもので、今日のわが国の状況で考えれば、ある部分においては利益が少なく、弊害の多いところもあるだろう。

あるいは、まったく弊害だけを見る部分もあるだろうか。

しかし、ただその弊害だけを見て、男女同権が天理に悖り、人道に背くものと定めることはできないだろう。

考えてごらんなさい。

女が権利を振るって弊害があるのは、一部分ではないか。

今の男の権利が盛んであるために表れている弊害は、社会全体に関わっているものなのである。

今、この全体の弊害を除こうとするにあたって、わずかに一部分の弊害を避け、躊躇してもよいのだろうか。

果断の心に富んだ男たちにしては、似合わしくない説といえる。

今の世の論者という男たちが欲し望んでいる国会というものは、果たして完全無欠のものなのか。

立憲政体というものが、この上もない極限の制度なのか。

思うに、これにしても古い政治と比べればやや善良だといえるまでのことで、文明開化の極点から眺めれば、たいそう低く下ったものであろう。

だから、男女同権も今日のわが国で行い始めたなら、ある家では夫婦喧嘩も起こるだろう。

急に離縁を願う女も出てくるだろう。

喧嘩のためにランプ、コップも多く壊れるだろう。

里帰りの往復に車代もかさむだろう。

甚だしくは夫を裁判に訴え、あるいは夫を殺すほどの騒動も一時は起こるだろうか。

しかし、世の中が一般にこのようになるはずはない。

次第に権利が均衡を得るに至ったなら、男女が親しみあい、夫婦が愛しあう真情はいよいよ深く、本物の愛情を得るに至るだろう。

私は今、世の自由を愛し、民権を重んじる諸君に問うてみたい。

君たちは社会の改良を欲している。

人間の進歩を企図している。

それなのに、どうしてこの男女同権の説に限っては、守旧で頑固な党に結集しているのかと。

(つづく)

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