樋口一葉「にごりえ」 8
八
お盆を過ぎて数日、まだ盆提灯の光が淋しげな頃、新開の町を出た棺が二つある。
一つは駕籠に乗せられ、一つは棺にかけた縄に棒を通して担がれ、駕籠は菊の井の別宅から忍びやかに出た。
大通りで見ている人が囁き合うのを聞くと、
「あの娘も本当に運の悪い。つまらない奴に見込まれて可哀相なことをした」
と言えば、
「いや、あれは納得ずくだといいます。あの日の夕暮れ、お寺の山で二人立ち話をしていたという確かな証人もございます。女ものぼせていた男のことだから、嫌といえない義理に迫られてやったのでございましょう」
と言う者もいる。
「何の、あのアマが義理はりを知ろうか。銭湯の帰りに男に会ったので、さすがに振り放して逃げることもできず、一緒に歩いて話はしてもいたろうが、切られたのは背後から。頬先のかすり傷、首筋の突き傷などいろいろあるが、たしかに逃げるところをやられたに違いない。それに引き換え、男は見事な切腹。布団屋の時代から、それほどの男と思わなかったが、あれこそは死に花。偉そうに見えた」
と言う。
「何しろ菊の井は大損だろう。あの娘には結構な旦那がついたはず。取り逃しては残念だろう」
と他人の災いを冗談に思う者もいる。
諸説が入り乱れて確かなことはわからないが、恨みは長く尽きないのか、人魂か何か知らない筋を引く光り物が、お寺の山という小高いところから、ときおり飛んでいるのを見た者があると伝えられた。
(おわり)
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コメント
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こんにちわ!
にごりえの現代語訳とてもわかりやすく、面白かったです☆
樋口一葉にはまりそうです!
リクエストなのですが、「十三夜」も読みたいと思っていて、図書館にいっても、ネットでもなくて、もし投稿して下さったらすごく嬉しいですY(>_お願いしますY(>_☆
投稿: にごりえ | 2014年4月19日 (土) 08時18分
ありがとうございます。
リクエストいただきましたが、こちらのブログを更新する余裕がなく、当面、お応えすることは難しいかと思います。
樋口一葉の主要作品の現代語訳は、河出書房新社等から出ています。
「十三夜」の現代語訳は、『たけくらべ 現代語訳・樋口一葉』(河出文庫)に収録されています。
図書館にもあるかと思いますので、調べてみてくださいね。
投稿: まちこ | 2014年4月19日 (土) 11時48分