ネットでニュースを見ていたら、こんな記事を発見。
北陸大:国内の全高校、推薦指定校に 「誰でもいいのか」戸惑う声も
(『毎日新聞』大阪朝刊 2006年9月17日)
◇07年度2学部で 一般入試廃止も検討
金沢市の北陸大(河島進学長)は、07年度入試の指定校推薦で国内のすべての全日制高校を指定校にする。高等専門学校を含む5238校が対象になる。指定校推薦は高校側との信頼関係の上に成り立つ制度で、一般推薦と異なり、高校から推薦されればほぼ合格する。文部科学省は「日本中の高校を指定校にするのは聞いたことがない」としており、高校側からも戸惑う声が出ているが、北陸大は「学生に意欲があり、教育の中身がしっかりしていれば能力はついてくる」とし、志願者増を期待している。
ずいぶん思い切ったことをしていて、タイトルに「誰でもいいのか」とあるのも肯けます。
戦略・戦術に適った思い切ったことは、私も好き(『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーも好き)ですが、この場合はどうなんでしょう?
北陸大は1975年創立の私学。法学部など4学部があり、全学生は約2800人。07年度の入学定員は計506人で、うち、薬学部と未来創造学部で全国の高校を指定校にして計200人を募集する。出願期間は10月10~20日。筆記試験はなく、生徒には面接し、定員以上の応募があった場合は選抜を行う。(略) 06年度の指定校募集枠は両学部で計50人。指定校は▽薬学部67校▽未来創造学部185校で計50人がこの枠で入学した。
北陸大学の公式サイトで確認してみました。
記事には「法学部など4学部」とありますが、法学部と外国語学部は、04年度の未来創造学部開設に伴い、新入生募集はしていないので、在学生が卒業するまでの暫定的な4学部体制。
そして、薬学部は定員306名のうち120名、未来創造学部は定員200名のうち80名をこの指定校推薦で募集。
入学定員に占める指定校推薦の募集枠は、06年度の9.9%から07年度は39.5%まで拡大。
指定校は、06年度の延べ252校から、一気に全国の全日制高校・高等専門学校5,238校に拡大ということのようです。
この入試制度の変更について、学内でどんな議論がされたのか知る由もありませんが、これだけ大きな変更をして責任を負える(または問われない)のは、フツーに考えトップの方だけだと思うので、トップダウンの決定かしら?
指定される側から見ると、他校との差別化がなくてありがたみがないし、「定員以上の応募があった場合は選抜を行う」というのは、公募推薦とどこが違うの? と思いますが、この大学の公募推薦は、他大学との併願可で、調査書の評定平均値の条件もなし。
つまり、「専願で、評定平均値3.0以上の方なら、こちらのほうが枠も広くて、嫌な筆記試験もないし、いいですよー。全国の受験生の皆さん、金沢で大学生になりませんかー?」ということみたい。
河島学長は「学力不足で大学にいけないと思う人たちもいる。機会を均等に多くの人に与えたい。偏差値教育を見直し、入試制度に一石を投じたい」としており、将来は一般入試の廃止も検討しているという。大学の教職員約90人が一部の高校に出向き、単なる学生集めではないことなどを説明しており、実際の出願数については「募集定員前後で落ち着くのでは」と想定している。
たぶん、この出願数の想定は、合格したら入学する意思のある受験生が、公募推薦から指定校推薦に移行するという見込みに立っていて、「一部の高校」に出向いている教職員の方々も、そのへんを説明しているのだと思います。
でも、従来の募集エリアが頭打ちで、本気で全国に枠を広げようと考えているなら、教職員が訪問できる高校の数にも限度があり、少子化は他のエリアも同じなので、これまで以上に魅力的で、遠方の受験生にも通じる広報が必要になるはず。
そう思って、指定校推薦のページをスクロールしていたら、入試概要の下に、こういうコピーがありました。
全国すべての高校が指定校
2007年度から、北陸大学は全国5200校の高等学校すべてを指定校とさせていただきます。そして、学びへの明確な意志を持つ全国の皆さんを受け止め、“北陸大学秘伝のタレ”とも呼ぶべき独自の教育方法で責任と愛情を持って教育します。
実は、いま書いてるのは、この「秘伝のタレ」というコンセプトやコピーが、あまりにもおかしかったから。
「秘伝のタレ」のページを見ると、まず、電車の中吊り広告か何かに使ったと思われる、白地に黒・赤の文字だけの画像。
左側の大きい「秘伝のタレ」という文字の下には、「Secret Sauce」という英字まで添えてあって笑えました。
スクロールすると、タレがたっぷり染み込んだ「うな重」の写真があり、続いて「秘伝のタレ」の3つの要素の説明があるという構成。
だけど、その説明は、1)学生支援の体制、2)授業日数の多さ、3)留学やWeb学習などの教育プログラムをちょっとつまんで、「秘伝のタレ」という語をかぶせただけ。
パッと見のおもしろさはありますが、このページを読む限り、情報の把握と伝え方を失敗してるなーと思いました。
なぜかというと、「秘伝のタレ」は、指定校推薦で入学してほしい受験生に特化したメッセージであるべきなのに、そのポイントとして挙げられているのは、他の入試で入学する学生と共通のものしかありません。
つまり、指定校推薦を全国に拡大することと通常の大学のセールスポイントをくっつけて、「秘伝のタレ」と言っただけ。
これでは、『毎日』の記事のように、「誰でもいいのか」と報じられても仕方ありません。
なぜ全国に拡大するのか、全然わからないもん!
私が制作側の人間なら、学生を「うな重」に喩えた企画は提案しないし、大学側の人間なら、そんな企画は採用したくないけど、この比喩を借りるなら、美味しい「うな重」を作るためには、「秘伝のタレ」だけでなく、お米やうなぎという素材も大切なので、どういう産地でどう育ったかを問わない「お店」というのは、いかがなものかと・・・。
記事によれば、実際、そういう「生産者」の方の声もあるようです。
高校側からは「高校の特色も調べず、一方的に指定するのはおかしい」という声もあり、案内状を受け取った東京都立高の男性教諭は「『高校生なら誰でもいいよ』としか聞こえない。生徒に配布する指定校の一覧表には載せなかった」と冷ややかだ。
お店の姿勢に問題があるなら、いくら「秘伝のタレ」という触れ込みで広告しても、売るのは難しいかもしれません。
この場合、誰に何をどう売りたいかはっきりしていないので、「秘伝のタレ」としかいいようがなかったのかもしれませんが、そこまでシニカルな表現を提案、採用したのなら、それはそれでスゴイ・・・です。
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