まちこ訳「猫の草子」 4
今日も最高気温36.9℃と猛暑続き
私は休日だったので、エアコンをつけた部屋でうとうとしていましたが、夕方、パセリから「いい加減にしなさい」と起こされました。
誤訳御免の「猫の草子」は最終回。
最後のほうにある歌のうち、2首めは和泉式部の歌のもじりです
* * *
夢が覚めて、また夜明け前にまどろむと、例の鼠が来て、
「とにかく、このままでは、京の中で耐え忍ぶことはできません」
と申す。
上京と下京の鼠たちが寄り合い、知らせを回し、西陣組は舟岡山の裾、小川組は上御霊神社の藪、立売組は相国寺の藪、聚楽組は北野天満宮の森、下京組は頂法寺の六角堂の中へそれぞれ寄り合って話し合ったという。
その中で、分別がありそうな顔の鼠が進み出て、
「しょせん、この状況ならば、命と引き換えにするほかはなかろう。どのようにして、この度は生き延びようか」
と申して、いろいろと相談した。
「もう都のお触れが出て五十日になるが、魚の骨一つ口にせず、油揚げや焼き鳥の匂いも嗅がず、猫殿に参りあわずとも、自ずから餓死に至るのだ。ふと考えついたことがある。近頃、耳にしたのだが、近江国でご検地があったので、租税を決めるために百姓が稲を刈っていないことを、確かに聞き届けている。まずは、冬の間はそちらへ参り、稲の下に妻子たちをかがませ、年を越して暖かくなったならば、北の伊香郡木之本の地蔵堂を頼り、左右の山々、伊香の山、小谷山、恐ろしいが、伊吹山や関が原、醒が井、摺針、佐和山、多賀の畑、鳥籠の山、白山寺山、上蒲生郡の山、布施山、布引山、観音寺、八幡山、鏡山、朝日山、甲賀郡の鷲の尾山などの村々里々に、三上山、信楽山、石山、粟津、松本、打出の浜、長良山、園城寺、延暦寺、坂本、堅田、比良、小松、白髭の明神近辺、打下、今津、海津、塩津、志賀の浦、船の便があるならば、竹生島、長命寺、沖之島などへも渡り、野老(ところ)や蕨などを掘って食い、いったん身命を繋ごうと存じる。何より心残りなのは、まもなく正月になり、鏡餅、はなびら餅、煎餅、あられ、かき餅、おこしなど、春雨の中でもつれづれの慰めにかじり食って、ジジと鳴き声を上げて遊ぼうと楽しみにしていたのに、大敵の猫殿に追い立てられ、退散するとは無念なことだ。しかしながら、猫殿も、犬という強敵に、あちらこちらと追い回され、辻や川端に倒れ伏し、雨や土にしおたれているのを見ると、報いはある」
と勇んで、方々へ退散した。
その中で、公家や門跡(皇族・貴族が出家して住持する寺院)などに久しく住んでいた鼠が、三首の下手な歌を連ねた。
鼠とる猫の後ろに犬のいて狙うものこそ狙われにけり
あらざらんこの世の中の思い出に今ひとたびは猫なくもがな
ジジといえば聞き耳たつる猫殿の眼(まなこ)のうちの光恐ろし
僧は内心、このような出来事を人に語ったならば、狂気と噂されようかと思い、深く胸に秘めて口を慎もうと思ったが、珍しい夢の戯れは、親しい友に語り伝え、
「笑いぐさだな」
と言うものの、仰せのとおり、鼠は少なくなり、物も盗まず、枕元も歩かない。
このようなご禁制は、昔から今に至るまで、めったにないことである。
今上の君も豊かに民も栄え、長くめでたいことばかりで、心がのびやかなことばかりである。
(おわり)
« まちこ訳「猫の草子」 3 | トップページ | オレンジミント »
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
初めまして。
Yahoo!ブログで「御伽草子」を、紹介してる者です。
「猫の草子」の現代訳、あったとは知りませんでした。
嬉しいです。
当方は「猫の草子」最終回で、こちらを見いだしました。
もっと早く見つければ良かった、参考になったのに・・・残念。
もうすぐ1年になりますが、10ほどの御伽草子を紹介してきました。
またお邪魔します。
ありがとうございます。
投稿: コロリン師匠 | 2013年1月23日 (水) 13:04
コロリン師匠さん
コメント、ありがとうございます
これまでブログに書いた明治期の文語体小説の現代語訳は、もうひとつのブログ「まちこの文机」に移したのですが、「猫の草子」は古典なので、こちらに残していました。
コロリン師匠さんのブログは、きちんと語釈も添えて紹介していらっしゃるので、訪問される方も勉強になると思います。
私もまた読ませていただきますね。
投稿: まちこ | 2013年1月24日 (木) 03:04