まちこ訳「猫の草子」 3
やっぱり今日も36℃を超える猛暑
職場では、昼食後に「いただきもののアイス、食べます?」と言われ、3時に約束していた来客からも、「アイス、買ってきましたよ!」と言われ、それぞれ遠慮なく頂戴しました
誤訳御免の「猫の草子」3回目は、猫が登場します。
* * *
また、次の夜の夢に虎毛の猫が出てきて、もっともらしく申すには、
「お坊様が尊いので、鼠根性といって人の憎む奴でございますが、このような奴どもが参って、いろいろなことを申し上げるよし、すぐに告げ知らせる者がおりました。総じて、あの鼠と申すものは、外道の最たるものでしょう。お坊様がご慈悲をおかけになっても、すぐに何か盗むに決まっております。また、私たちの系図をざっと申しあげましょう。お聞きください。このように申しますと、鼠とせいくらべをするようでございますが、由来をご存じなければ、賤しくお思いになるでしょうから」
猫背になってうずくまり、大きな眼を怒らせて申すには、
「私は、そもそも、インドと中国で恐れをなす虎の子孫です。日本は小国ですから、国に相応しく、このような姿で渡来させられました。そういう事情で、日本に虎はいないのです。醍醐天皇の御代からご寵愛を受けて、柏木の下(『源氏物語』の柏木とかけている)、下簾の内に置かれました。また、後白河法皇の御時から、綱をつけて傍に置かれました。綱がついているので、一寸先を鼠が徘徊するといっても、心に思うばかりで飛びつくこともできず、湯水が飲みたいときも、喉を鳴らし、声を出して、飲みたいのに頭を叩かれ、痛めつけられるので、どうしようもありません。言葉を通じるといっても、インドの梵語なので、日本人が聞いても分かりません。おおよそ繋ぎ殺されるばかりです。如来のご慈悲は広大で、賤しく貧しい家に月が宿られるように、猫ふぜいまでにお心遣いくださり、綱を解き、苦しみから逃れられたことは、ありがたいことです。今上の御代が、五百八十年の長久をお保ちになるようにと、朝日に向かって余念なく、喉を鳴らし、拝み申しあげる次第です」
僧が答えていう。
「猫の言われようは、まことに殊勝だ。唐の禅僧・南泉が猫をお斬りになった意味を思うと、斬られても、どうして志を変えようか。しかしながら、ここに困ったことがある。出家の役として、このようなことを見たうえは、そのままにしておかぬのが決まりだ。仲裁に入りたいというわけだ。殺生ばかりをする者には、因果は車輪のように、死んでは生まれ、生まれては死に、流転に沈んで、その因果を逃れがたい。一切は空であると知ることによって、生死や諸々の諸悪を離れ、三界や六道の輪廻も消滅して、ただちに解脱を得ると思われる。殺生をお止めなさい。お前たちの食物には、ご飯に鰹を混ぜて与え、また折々は、田作りやにしん、乾鮭などを、朝夕の食餌とするのはいかがか」
とお尋ねになると、
「お言葉のとおりではございますが、まずまず考えてもごらんください。人間は米をもって五臓六腑をととのえ、手足も達者で、気の利いたことも仰います。山海の珍味は、ご飯をおいしく食べるためのものだと伺っておりますが、私たちもそのように、天から食物として与えてくださいますために、鼠を食べておりますので、無病で飛び回ることは、鳥にも劣らないだろうと存じております。また、ゆっくりと昼寝をいたしますのも、鼠を食べようと存じますためです。それを今から耐え忍ぶことには、同意申しかねます。ご理解ください」
と申すので、あれほど広大無量の慈悲心をもつお坊様であっても返答しかね、感涙し、心を砕くばかりである。
(つづく)
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