まちこ訳「猫の草子」 2
昨日も今日も最高気温36℃以上
明日の予想最高気温も36℃ですが、誤訳御免の「猫の草子」2回目には鼠が登場します。
* * *
鼠の和尚と思われるものが、進み出て、
「お坊様に向かって言葉を交わすことは、はばかりに存じますが、お説教の趣旨のほどは引き続き縁の下で、日夜ご説法を拝聴しておりましたところ、懺悔で罪を滅するとおっしゃいましたことについて、出てまいりました次第です。深く懺悔もいたしましたならば、ご道理の一言もお授けになってくださいませ」
と申したので、僧は答えて、
「お前たちのような鼠ふぜいで、このような殊勝なことを申すものよ」
と言って、ひととおりでなく思い、
「草木や国土もみな仏になるというから、感情のない草木も仏になると思われる。まして、生命のあるものとして、一たび阿弥陀仏を念じれば、たちまち量り知れない罪も消滅する、阿弥陀も浄土もただ自分の心の中にある、ここから遠く離れたところにあるのではないと説かれているので、たとえ動物であっても、一たび阿弥陀仏を念じるという道理によって、仏にならないということはない」
とおっしゃると、
「それでは、懺悔の物語を申しましょう」
と、鼠が泣きの涙を押しぬぐって、
「この度、京の市中の猫の綱を放されますため、我々一門はことごとく姿を隠し、あるいは逃げ、あるいは死に、いま少し残っております者どもも、今日明日の命と思い、心細く礎の陰や縁の下にかがんでいるとはいうものの、少しの油断もございません。また、穴ぐら住まいをいたしてみるといっても、一日二日のことでもなく、中にばかりも、息がこもって、いられません。たまたまつらい世間へ出てまいろうとしても、猫に取って押さえられ、頭から噛み砕かれ、肉を引き裂かれ、このような恐ろしいことに遭いますとは、前世の因果が悲しゅうございます」
と申すので、僧は答えていう。
「お前たちがしおたれて言うことは、いたわしく思う。ことに一言も授けたので、弟子同然に思う。まずは、けしからぬこととして、お前たちが人に憎まれる理由を語って聞かせよう。私のような独りでいる法師が、たまたま傘を張って立てかけておくと、すぐに柄の元を食い破る。また、檀家をもてなそうと、煎り豆や黒豆の甘煮を用意しておくと、一夜のうちにみな食ってしまう。袈裟や衣といわず、扇、書物、襖、屏風、かき餅、六条豆腐などもたまらない。これでは、どのように柔和で忍耐強い阿闍梨であっても、お前たちの命を絶ちたいと思うのは勿論だ。まして、まったくの俗人では当然である」
そのとき、鼠が答えていうには、
「私も、お例えのように存じまして、若い鼠たちに意見をするといいましても、忠言耳に逆らい、良薬口に苦しと申しますので、なかなか聞き入れもせず、ますます悪戯をいたそうと申します。その中でも、まず第一に人に憎まれてはならない、東隣さんや北隣さんの洗い物、茶汲み女や下女の前垂れ、帷子、足袋、また袴や肩衣の端、衣服を収めた唐櫃の隅、包み、つづらの中にこもって家を作ったり、餌食にも手柄にもならないものを食ったりしてはならない、壺の傍を回るなと、赤ん坊や付け紐の幼時から申し聞かせておりますが、勝手気ままななりばかりを好み、人の枕元、菰、天井、古屋根などを住みかとして、悪戯ばかりをいたしますことは、どうにもならないありさまで」
と申すうちに、夢が覚めて、すでにその夜は明けていた。
(つづく)
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