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2009年7月10日 (金)

『レオくん』再読

7日に取り上げたときは、内容に触れるのを遠慮しましたが、やっぱり・・・。

 萩尾望都『レオくん』(小学館フラワーコミックスα)

主人公のレオくんは、2歳の雄猫。

8編のマンガと最後の写真(実際のレオくん、たま姫姉さん、マイちゃんの写真に吹き出しをつけたもの)はどれも楽しめましたが、私のいちばんは、巻頭の「レオくんの小学1年生」。

お隣のタツルくんが、給食にプリンが出る小学校に行くのを知り、自分も行きたくなったレオくんは、ママにランドセルを作ってもらって、タツルくんの隣の1年2組に入ります。

「ランドセルせおって 小学校行くの!」というレオくんの希望を聞いて、一緒に小学校に出かけ、「本人(猫)がそう言ってまして 親としては まァ 聞いてあげたいと」と頼むママも、「前例のないことですから」と言いつつ、「ためしにきてみますか?」と答える校長・教頭もシュールですが、面白いのはそのあと。

朝、レオくんはタツルくんと一緒に登校し、学校の購買でおはじきセットを買うようにママから渡されたお金で、キラキラしたボールとバナナの匂いの消しゴムを買ってしまいます。

1時間目は国語、先生が教科書を読み、同級生も声を揃えて読み始めますが、レオくんは買ったボールで遊んで叱られ、あくびをして叱られ、手で顔を洗って叱られ、しっぽをパタンパタンして叱られます。

やっと休み時間になり、同級生とボール遊びをしていたら、たった10分で2時間目に。

2時間目の算数、おはじきセットを買わなかったレオくんは、先生から予備を借りますが、自分の好きな色や形のおはじきを出して、先生から間違っていると言われ、しっぽをパタンパタンさせると、今度は同級生から「しっぽは動かさないのよ」と注意されます。

3時間目の生活、「春の虫はなにかなー?」という質問に、手を挙げて「セミッ !!」と答えたレオくんは同級生に笑われ、授業中にオシッコに行きたくなると、周囲の同級生から「今はダメだよねー」という声。

「いそいで行ってらっしゃい」と先生に言われ、窓から庭に出てオシッコをして戻りますが、それを見ていた先生に叱られ、「お手々も洗ってキレイにしてくるのよ」と言われ、汚れた手とおしりをなめて、また叱られます。

その後、休み時間にタツルくんと会うと、そのまま隣のクラスでサッカーをしてしまい、4時間目の音楽に遅刻して叱られ、同級生も「ちこくだ」「いけないんだよ」の合唱。

我慢して泣きながら歌いますが、その日は給食がないことがわかって大ショック。

帰宅したレオくんは、ママが出してくれたプリンを大喜びで食べながら、学校でのつらい記憶を頭の中から消していきますが、「学校どうだった? おもしろかった?」とママに聞かれると、しっぽをパタンパタンさせ、「ぼく 学校 もういい」。

ママも、せっかく作ったのに1日で要らなくなったランドセルを手に、「ま いいか ネコだものね」。

・・・と、小学校に猫を置くことで、猫の習性、人間社会の規範や画一性が描かれてますが、4篇目の「ヤマトちゃんの恋」では、同じ1年2組の女の子・ヤマトちゃんから見たレオくんを通して、そんな人間社会で生きていかなければならない子どもの内面を取り上げていて、この2篇だけでも読む価値大。

「心理学専門書の読書」が趣味という萩尾望都には、父-息子関係を描いた『訪問者』、母-娘関係を扱った『イグアナの娘』、母-息子関係と義父-息子のレイプを取り上げた『残酷な神が支配する』など名作が多々ありますが、今回のレオくんのしっぽのパタンパタン(規範への違和感)も、かなり魅力的でした。

※  絵本『トリッポンのこねこ』(教育画劇、2007年)の奥付。

ちなみに、この絵本も、前にAmazonの案内メールを見て買いましたが、文が萩尾望都で、絵は絵本画家のこみねゆら。

届いてから萩尾望都の絵じゃないのに気づき、パセリが「どうしたの? それは何?」と寄ってきたので、「絵本だよ」と読んであげました

話を戻して、次に面白かったのは、2篇目の「お外に出して」。

ある日、レオくんは縁側の窓をカチャカチャして、「雨だよ」というママに開けてもらい、回れ右して玄関へ。

ドアをガシガシして、「おげんかんはちがうもん」といって開けてもらい、また回れ右して台所へ。

「同じだって」というママに、「お台所はちがうもん!」「前 ここから出たとき お天気だったもん!」。

なるほど、そうよねえ(ちゃんとレオくんに付き合ってるママもえらい)と思って読みました。

その次が、3篇目の「レオくんのお見合い」。

ママの友人・マルちゃんのおばさんが始めたお見合い教室で、婚活することになったレオくん。

相手の4人の女性は、それぞれ自分の理想(共働き・家事平等型、専業主婦型、共働き・ご飯はデパ地下で購入・子ども不要型、ヒモ囲い込み型)を披瀝し、レオくんも努力しますが、4人目に対する「今とかわんないのなら ママのほうがいい」に爆笑。

7篇目の「レオくんの映画スター」は、大島弓子『グーグーだって猫である』の映画化を知ったレオくんが、グーグー役のひとり(似た猫を何匹も使って1匹に見せる)になろうと、顔や体にクレヨンでアメショーの模様を描き、撮影所に潜入して失敗する話。

帰り道、三毛猫のタマ役は逃したものの、猫の集会シーンでエキストラをしたたま姫姉さんから、「メイクとってふつうのシマネコになってたら 集会のメンバーでいけたんじゃない?」と言われますが、そのままのレオくんでいいんだよという意味では、『レオくんだって猫である』といえる1篇。

というわけで、猫好きな人、猫の親をしている人、『グーグー』の読者はもちろん、人間の子どもの親や教育関係者、婚活に興味のある人(?)にも、面白いのではないかしら・・・と思った1冊でした。

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