短歌・小説の中の乳がん
先日の入院中に読もうかと思って買いましたが、入院前に読んでしまいました。
全体の2/3は、1952年に左、53年に右の乳房を切除したふみ子が、入院中の54年7月、死の1ヵ月前に刊行した『乳房喪失』と翌55年に刊行された『花の原型』を編みなおしたもの。
残りの1/3は、54年3~8月に『短歌研究』編集長・中井英夫とふみ子との間で交わされた書簡。
短歌は門外漢の私には、戦後歌壇や女性短歌史上の位置づけはわかりませんが、乳がんという病を通して、女性の身体、セクシュアリティを表象している点、感情語を用いても、次の瞬間には客観的に捉え返す姿勢、その元にあるプライドにひかれました。
葉ざくらの記憶かなしむうつ伏せのわれの背中はまだ無瑕なり
中井との往復書簡は、中央歌壇に批評を持つ野心的な編集者と乳がん患者である一地方歌人(このとき2人とも32歳)として始まったやりとりが、1通ごとに濃密なものになっていく過程が小説みたい。
入院中は、外出して帰るときに買った『銀河英雄伝説 8』を読んでましたが、今は、世界で初めて全身麻酔で乳がん手術を行った華岡青洲の<家>を、ハストリアン(his storyではなく、her storyとして歴史を見る)・有吉佐和子が描いた『華岡青洲の妻』を再読中。
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院のサイトに、詳しい華岡青洲の紹介がありますが、その「乳がん手術」のページを見ると、彼の手術は現在でいう部分切除だったそう。
青洲の偉業の陰にいた母と妻、2人の妹という女たちを描いた有吉が、「乳房は女の急所」と考えられ、患者の多くが進行してから医者にかかった当時、部分切除だった限界(?)や配慮(?)について書いていないのは、残念といえば残念です。
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