1940年の雑誌広告
たまに必要があって昔の雑誌を読みますが、表紙、口絵、目次、記事などとともに、いたく「時代」を感じさせてくれるのが広告。
いま手元にある、朝日新聞社発行の『婦人朝日』1940年10月号(定価40銭。日本の古本屋で探し、4,000円で購入)も、そんな1冊です。たとえば・・・。
「アイデアル洋髪香油」(高橋東洋堂)のキャッチコピー。
硫黄と燐の複合リパイド配合
自粛の洋髪に本香油を!
「自粛の洋髪」と言いながら、商品は売らねばなりません。漢字で大きく「硫黄と燐」。しかも、よくわからない「複合リパイド」。きな臭さ満点、一触即発といった雰囲気のパーマヘア用オイル。定価55銭。
「花王シャンプー」(花王石鹸株式会社長瀬商会)。
戦争と髪!
フランスは敗れた・人工の美は弱かつた新体制が要求するまことの女性美は清潔にして健康な自然の美しさです
同盟国ドイツによるフランス占領のことをいってます。敗れたフランス製でなく、日本製(当社)のシャンプーをお使いなさいという内容。「新体制」は、挙国一致の戦時体制確立に向け、この年から各方面で行われた統制の総称。「人工」/「自然」の恣意的な使い方にも注目。時局迎合のお手本みたいな広告です。写真は笑顔の女学生3人。
「パピリオ」(パピリオ化粧品)。
パピリオの
若き科学者たちの組織する、わが研究所はすでに百九十万円を研究に使つてゐる。ずつと、舶来ばかりお使ひになつてた方、比べて下さい。
ボディコピーでは、「粉白粉を顕微鏡でごらんになつたことありませんか?(略) フランス○○○ 商業道徳上、名は申せませんが、誰でも知つてるあれは」と、女性4人の顔写真と肌の拡大写真入りで比較広告。こんなところで比較されるなんて、コティもびっくり(しないって)!
「モノゲン」(ゲンブマルセール石鹸本舗/第一工業製薬株式会社)。
化学の力でもまずに汚れがよく落ちる
上手に洗つて永持ちさせて
被服資源を護りませう
「銃後の護り」は洗濯にも。「スフ・毛類・人絹のおせんたくに!」。定価50銭~1円20銭。モノゲンは、昔も今も縮みやすい衣類によいようです。
そして、「ムッソリーニペン」(クラウン万年筆/株式会社澤井商店)。
戦時体制に輝く純国産!!
国策順応
国を挙げて
ムッソリーニペン
「ムッソリーニペン」と彫られたペン先と万年筆の広告。「スラスラ書けて錆びず値の廉い国産の逸品」だそうです。なのに、商品名には、他国(同盟国とはいえ)の首相の名前を拝借。ムッソリーニは、3年後の7月に罷免、イタリア軍に拘束されました。この商品、いつまであったのかな?
「ヨゥモトニック」(三共株式会社/泰昌製薬株式会社)。
精神(こころ)に明朗
粉飾(みだしなみ)には自戒をこの一瓶が、「頭髪の健康」を一手に引受ける……正しい養毛料
ヨゥモトニック
ボディコピーで、「①雲脂が止まる ②頭臭を消す ③痒味を去る ④脱毛を制へる ⑤毛生力を促がし若禿を予防する」と5つの効果がうたわれています。定価の記載なし。ヨゥモ(養毛)+トニックでヨゥモトニックかと思ったのですが、姉妹品に「ヨゥモト香油」(60銭)、「ヨゥモト洗髪液」(60銭)というのもあって・・・違うのかな?
ちなみに、三共株式会社は、今年4月に第一製薬株式会社とヘルスケア事業を統合し、第一三共ヘルスケア株式会社に。最近まであったらしいヨゥモトニック、検索してみたけど、見つかりませんでした。知人に教えたかったのに・・・残念。
「オリエンタルフィルム」(オリエンタル写真工業株式会社)。
女性の立場
慰問写真にパンXフイルム
記事横下5㎝×10㎝の広告ですが、ボディコピーには「敢へて作家になれとは申しません(略) 女が哲学を論じたり、政治に容喙したりすることだけが、決して女の知性を高めることではないのです。カメラを通して社会を知り、フイルムを通して人生を穿つ、そんなところに女性カメラマンとしての立場があるのじやないでせうか」という文章を採用。
「慰問写真に」とあることから、夫や兄弟などが徴兵された後、女性にもフィルムの需要を伸ばすための広告と思われますが、書いてあることはご立派。「容喙(ようかい)」といった難しい漢字にもルビはなく、ターゲットは知識人女性。
「リポイド・クリーム」(三共株式会社/泰昌製薬株式会社)。
中年女性は怠(おこた)らず
皮膚(ひふ)に栄養(ゑいよう)をやりませう
栄養クリームは一般の化粧用クリームとはつきり区別して使ひ分けて頂きませう
四十ソコソコで小皺やタルミに気を病むナゾとは余りにも近代美容化学の恩恵を御存じないウカツなお話です
「使ひ分けて頂きませう」、「ウカツなお話です」なんて、女学校のコワい先生の訓話みたい。定価3円。ただし、使用後の容器は「立派なインクスタンドに応用」でき、「奥様がメキメキと若返つた後で、其儘、御主人のデスクを飾ると言う寸法」で、2瓶で「スタンド台引換券付の特典」あり。時局柄、ただの贅沢品ではございませんわよ!と主張したいようです。
「樋屋竒應丸」(本家 樋屋合資会社)。
日本(ニッポン)の力(ちから)……は赤チヤンの健康から!
愛児(あいぢ)の順調(じゆんちよう)な発育(はついく)を保證(ほせう)する
正しい救急 治病 保健の良薬(キオーガン)から
記事横1/2広告。出生率の低下を国力の低下と考える方々には、今も赤ちゃんは「日本の力」かもしれません・・・。主効は「カンムシ、胃腸障害、吐乳青便、かぜ発熱、ヒキツケ、キゼツ、智恵熱、胎毒、夜泣」。薬価20銭より。・・・と書いて思い出すのは、4月の異動前、私が熱を出して欠勤すると、部長から「智恵熱やな」と言われていたことですが、意味わかりませんでした。
きりがないので、今回はこのへんで。また、続きを書くかもしれません・・・。
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コメント
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突然すみません。変なカメラマンが留守電入れてまで「必見」との
情報が有りましたので、拝見しました。
スゲーオモロいです。これシリーズ化してください。
いや本にして欲しい。
投稿: 彦一 | 2006年5月17日 (水) 14:31
こちらこそ、どうもすみません。
某カメラマン氏、人のブログ見て留守電入れるくらいだから、大丈夫ですね(^_^;)
広告シリーズは、近日中に続編を予定しています。とりあえず、同じ雑誌の第2弾。その後は、明治時代なんてどうでしょ?不定期ですが。
投稿: まちこ | 2006年5月17日 (水) 21:45
なにが大丈夫なんじゃ!? きのう撮影いってきましたよ。共通点はめがねだけってカンジでした。o(>_<)o
投稿: 壱景 | 2006年5月18日 (木) 10:14
これはまた、出すぎたことを・・・(^_^.)
投稿: まちこ | 2006年5月18日 (木) 12:22